CFOメッセージ
企業価値を持続的に高めていく

財務基盤安定性を維持しながらも、新規投資を積極化する
雙日では、財務基盤の安定性を維持するために、一定期間における基礎的キャッシュ?フローの黒字を堅持することは「基本中の基本」と位置づけています。2021年3月期においては、新型コロナウイルス感染癥拡大が各種事業に影響を及ぼし、基礎的営業キャッシュ?フロー*1が一時的に落ち込んだ一方で、投資の実行も計畫通りには進捗せず、結果として、中計2020の3ヵ年では基礎的キャッシュ?フローは累計560億円、フリー?キャッシュ?フローも累計1,080億円と、それぞれ大幅な黒字で著地しました。財務基盤の安定性は引き続き堅持できていると評価していますが、投資の実行が計畫通りに進捗しなかったという事実は、「取るべき成長を取り損ねた部分もある」ということであり、「中期経営計畫2023」(以下、中計2023)においては、成長のための新規投資3,000億円、非財務投資300億円を実行していきます。この結果、中計2023の3年間では基礎的キャッシュ?フローは赤字となる見通しですが、前中計からの6ヵ年累計で基礎的キャッシュ?フローの黒字を堅持する計畫としています。
また、ネットDERについては、中計2020で「1.5倍以下」としていた目標を中計2023では「1倍程度」に変更しましたが、これはレバレッジを抑えることを意図したものではなく、望ましいと考えている足元の水準を維持するという考え方です。中計2023においては、中計2023期間中での投資収益貢獻の実現を企図し前倒しで投資を実行する計畫であることから、2022年3月末に一時的にネットDERが1.2倍程度まで上昇する計畫ですが、中計2023最終年度である2024年3月期末には、再び1倍程度に収れんさせる方針です。
雙日は、まだ成長途上にある企業です。一定のレバレッジを保ちながらも、新規投資を積極化することにより、トップラインを拡大していきます。
*1 基礎的営業キャッシュ?フロー:會計上の営業キャッシュ?フローから運転資金増減を控除したもの
キャッシュ?フローマネジメント
中計2023でも引き続き、基礎的キャッシュ?フロー6年間累計での黒字を維持

価値創造の測定?評価に向けてCROICを経営指標として導入
中計2023においては、改めて當社が目指す価値創造の考え方を示しています。価値創造の測定?評価にあたっては、ROEが當社株主資本コスト8%程度を十分に上回ることを最重視しており、中計3ヵ年平均のROE目標を10%超としました。
當該目標を著実に本部経営に落とし込むため、キャッシュリターンベースでのROICであるキャッシュロイック(CROIC)*2を経営指標として導入し、本部ごとに測定?評価することとしました。本部の事業特性と足元の資本効率性、中計2023期間中の投資戦略を踏まえ、3ヵ年平均で最低限達成すべきCROICの水準を「価値創造ライン」として本部別に設定しています。各本部が価値創造ラインを超えるCROICを実現できれば、全社ROE10%超を十分に達成できる水準に設計しています。
加えて、個別投資案件の評価の仕方も、「企業価値の向上に資するものなのかどうか」を基準として整理し直しました。今回、新規投資の入口基準であるハードルレート(HR)を、投融資対象の機能通貨を前提とした資本コスト、及びカントリーリスクプレミアムの2つの構成要素に簡素化しています。従前のHRは、案件に內在するリスクに対して、どれだけのリターンを求めるか、というリスクプロファイルベースで設計していました。雙日発足以來15年以上経過し、発現可能性のあるリスクを都度HRに追加していったため、リスクプレミアムが重層的となり、その結果、積み重なったリスクプレミアムを超える案件を発掘するのは営業部として容易ではなく、客観性の乏しい売上成長計畫を織り込んでいる案件を少なからず投融資審議會議長としてみてきました。當然ながらそういった案件は、事業計畫の達成が困難なだけでなく、挽回策の打ち手も後手に回ります。
市場環境の変化が加速化している昨今、當初策定した事業計畫通りに案件を進めることは非常に難易度が高いといわざるを得ません。HRの構成要素を大幅に簡素化したのも、コロナ禍をはじめとした従來テールリスクと考えられてきたものが具現化するなど、定量的指標だけで投資実行の可否を判斷することが難しい経済環境になったことが一つの理由です。営業部にはHRを超える事業計畫を作り上げることに注力することよりも、中計2023の投資コンセプトとして掲げた「マーケットインの徹底」による客観性の擔保(バイアスを極力取り除いた仮説に基づく事業計畫の策定)、また市場変化の潮流を先んじて摑み、その対策を早期に実行するために適切なKPIの設定とモニタリングを実施することを求め、一方、審議部の職能部にも従前とは異なり定性的にどういったリスクがあり、そのリスクを取れるのかというところを今まで以上に責任を持ってみてもらうというのが今回の変更に含まれた意図です。
投資実行後においては、殘念ながら當初計畫が未達となってしまった場合は、最善を盡くしてリカバリーすることを求めますが、それでもなお、當社価値創造の最低水準を達成できないということであれば、原則撤退を進めていきます。今回、これを具體化するために、投資案件ごとにCROICやROICがWACCを超えているかを測定することとしました。
*2 CROIC:基礎的営業キャッシュ?フロー÷投下資本
価値創造のための対話を実踐し、PBR1倍超を目指す
中計2023では、定量計畫として「PBR1倍超」を掲げました?,F在のPBR1倍割れという狀態は、純資産価値を毀損するリスクがポートフォリオの中に含まれているという投資家の皆様からの懸念や、將來利益に対する期待値の低さを反映したものであると捉えています。當社の株主資本コストは8%程度と認識していますが、株式市場の評価とのギャップの一要素であるリスクプレミアムを低減させるためには、情報の非対稱性を解消し、先ほど申し上げたような懸念を取り除く必要があります。
雙日では、これまでもセグメント別の詳細情報など、財務情報の積極的な開示の充実に取り組んできました。このたび価値創造ラインとしてお示ししたCROICも、その一つといえます。また、非財務情報の開示についても、社會に対して雙日がサステナブルな存在であることを示す上で不可欠であると認識しており、特に脫炭素をはじめとする「環境」、サプライチェーンの人権保護などの「人権」について重視して情報開示を進めています。財務情報及び非財務情報ともに「何が足りないのか」を常に検討しながら、リスクプレミアム低減につながる情報開示を図っていきます。
さらに、「PBR1倍超」という目標に込めた覚悟をお示しするために、連結配當性向30%を基本としながら、PBR1倍に至るまでの下限配當を時価ベースのDOE4%とする配當方針を掲げました。情報開示の充実に加え、対話を通じて投資家の皆様に「雙日がどこを目指しているのか」をご理解いただけるよう努力するとともに、しっかりと実績を積み上げていくことにより、將來利益に対する期待値を高めていきたいと考えています。ただし、利益を追求する大前提は、社會に対する責任を果たすことにあります。これを見失い、職業倫理に反した行動などで、社會の信用を失うようなことがあってはなりません?!鸽p日が得る価値」と「社會が得る価値」という2つの価値を創造することにより、「PBR1倍超」実現を目指します。
CFOとしての責務を全うし、雙日の企業価値を高めていく
私は、當社が経営難に苦しんでいた時代を知る數少ない世代の一人であり、再びあのような狀況に陥ることがないようにしたいという思いが強くあります。2020年3月期及び2021年3月期は、コロナ禍の影響を受けつつも利益を確保し、安定的かつ継続的に配當を実施することができました。當社発足前後の経営が不安定であった頃を振り返ると、今回のような不測の事態においても一定のキャッシュ?フローを創出し、自己株式取得を含めた株主還元を実施できる企業になれたことには、隔世の感すらあります。これはひとえに、社員はもちろん、あらゆるステークホルダーの皆様のご支援があったからこそです。心より感謝申し上げるとともに、CFOとして、雙日という企業を未來につないでいかなくてはならないという責務を改めて感じています。
私はCFOにとって最も重要な役割は、財務健全性の維持強化や投資規律の遵守、取るべきリスクの見極めをしっかりと行っていくことであると考えています。それが「企業価値をどのように高めることができるのか」につながっていくということです。そして、企業価値が高まるということは、ただ純資産価値が大きくなるだけではなく、雙日が社會から、より価値のある存在であると認められるようになることでもあります。
この変化の激しい時代において、企業価値を持続的に高めていくためには、変化に対応して自らも変わっていかなくてはなりません。いわゆるコーポレート?トランスフォーメーションを実現する必要があります。
よく「雙日らしさとは何か」とご質問いただくことがありますが、敢えて「これだ」と固定化する必要はないと考えています。自らを変革し続け、事業や人材を創造し続ける総合商社でありたい。これが「雙日らしさ」となれば、嬉しく思います。
雙日には、さまざまなことに果敢に挑戦する気概を持った熱意のある社員がたくさんおり、その素地は十分にあると私は思っています。そういった人たちを応援し、社員の思いと會社の思いが一致する會社、そういう會社にしていきたいと考えています。